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のむラボ日記

自転車工房「のむラボ」のブログです

起源の主張  

私がこのお店を始めてから、
以前にも増してホイールに触る機会を与えていただいてますが(ありがとうございます)、
ここ最近で一番大きな変化は「半コンペで組んで」というオーダーです。
「半コンペ」というのは私の造語ですが、
要は左右異径スポーク組みのうち
特にオススメなCX-RAY/コンペティションの組み合わせのことです。
あっ、「左右異径スポーク組み」も私の造語でした。
概念そのものはすでにありました(ここ重要)が、
適当な言葉がなかったので そう呼んでいます。

私は左右異径スポーク組みについて数年前から構想は持っていましたし、
(今は違うようですが)レイノルズもそうだと知ったのは
私が左右異径スポーク組みの有効性を確信してから あとのことです。
とはいえ、左右異径スポーク組みを考えたのは世界で私が最初だなどという
ハズカシイことを言うつもりはありません。
むしろ、毎日ホイールのことさえ考えていれば私程度の頭でも思いつくような
自明の理のひとつだと思います。

例えば シマノのWH-7850-C24は後輪の左右のスポーク長さが同じなのに
品番は異なります。なぜでしょうか。左右で太さが違うからです。
DSC05221amx.jpg
DSC05222amx.jpg
↑後輪の左右バテッド部分の径が違います。
エアロスポークで1.8とか1.5というのは表記上はおかしいのですが、
エアロに加工する前の丸スポークの径だと思われます。
フリー側がDTでいうところのコンペティション、
反フリー側がレボリューションに相当する太さのスポークを
扁平加工したという解釈でOKです。
レボリューション相当といっても、加工硬化が起きているので
「うにょーん」は まず出ません。
これはCX-RAYも同じです。
というよりも このスポーク、
CX-RAYのストレート仕様そのものだと思いますが。

カンパニョーロのニュークリオンも左右異径スポークです。
レイノルズも、この前ここで上げたボントレガーもそうですね。
何が言いたいかというと、ホイールの理屈に関して
個人が起源を主張できるレベルの新発見など もうおそらくないということです。


DSC05224amx.jpg
チョット失礼シマス!
DSC05218amx.jpg
WH-9000-C24-CLデハ左右同径すぽーくデスガ、
DSC05219amx.jpg
下位もでるノWH-RS80-A-C24デハ
左右異径すぽーくニ ナッテイマス!
↑やーめーろー!いらんこと書くなー

まあ、オプトバルで2:1スポークだから反フリー側を細くしなかったのでしょう。
いや、待てよ。C24のWOはオプトバルじゃなかった。



ここから本題。
「最初の完組みホイール」っていったい何になるのでしょうか?
手組みじゃ無理な作りのホイール、というのが完組みの定義なら
ディスクホイールになると思います。
そうではなくて、ロードレースに使うスポークドホイールでは?というと、
1996年のマヴィック・ヘリウムかも知れません。
しかしこれは爆発的に完組みが広まって手組みが駆逐される(絶滅はしてませんが)
きっかけになったホイールで、完組みの起源ではありません。
クリップレスペダルは1985年のLOOK PP-65以降
爆発的に普及して従来のトウストラップペダルを絶滅させましたが、
70年代初めのチネリのM-71が元祖といえば元祖です(多分)。

ここでヘリウムをPP-65に例えるならば、
M-71に相当するホイールは何なのか、というと
最古の元祖という証拠はないのですが、
DSC05207amx.jpg
↑このローヴァルなのではないかと思います。

DSC05208amx.jpg
DSC05209amx.jpg
ローヴァルはいま、ある完成車メーカーのホイールの
社内ブランドみたいになってますが、
由緒正しいフランスのホイールメーカーです。

DSC05210amx.jpg
このホイール、何がすごいのかというと
オーバーロックナット寸法126mm、ボスフリー用ハブの時代に
(ということは80年代後期です)
これでもかというくらい理詰めで設計されている、という点です。
DSC05211amx.jpg
まず、ハイローフランジの採用から。
これ自体はカンパニョーロのハブなどで すでに知られていた
工夫ですから驚くには当たりません。

DSC05213amx.jpg
つづいて。ストレートスポークです。
ストレートスポークの多くは「単に首を曲げていないスポーク」ですが、
DSC05212amx.jpg
このスポークは専用形状のスポークヘッドになっています。
ハブに食い込んでいるので分かりづらいですが、
スライスしたエリンギみたいな形になっています。

DSC05214amx.jpg
つづいて。
内蔵ニップルです。
リムもエアロリムです。アラヤのエアロ1リムもそうですが、
当時はこれでも「エアロリム」と呼んで差し支えない形状だったのです。
カンパニョーロのシャマルなどで40mmくらいのアルミリムが出たときは、
それはそれはぶっ飛んだリム高に見えたものです。今では普通ですが。
それ以前の「エアロリム」というのは こういうものです。
DSC05215amx.jpg
ニップルとワッシャーも専用品です。

DSC05217amx.jpg
最後に。
このホイールのもっとも先進的なポイントについて。
2:1スポークになっています。12:6の18Hです。
このスポーク数の後輪としては世界初なのではないでしょうか。
現行のローヴァルはフルクラムのパクリと思われがちですが、逆です。
ボスフリーの時代にノーヒントからここまで思いつくというのがすごいですね。
これは元々 私のホイールだったのですが、
これの前輪を持っている方がいたのでお譲りしました。
ちょっと調べたいことがあったので しばらく預からせて下さいと
お願いして当店に持ってきてもらったのです。

このホイール以後の 同構造・同アイデアのものは
ローヴァルを知っていたなら模倣、
知らなかったなら再発見に過ぎないということになります。


私は2005年のフルクラム以前に
2:1スポークのホイールを組んだことはありますが、
もちろん起源を主張したりはしません。
ローヴァルを知っているのでそんなハズカシイことは言えません。
2:1スポークのホイールは 首折れスポークで組むには
反フリー側のスポークに重篤な問題がある、
よって売り物にならない・してはいけないというのが私の見解ですが
ローヴァルはそれを25年以上前にクリアしています。
本当に頭のいい人達の考えたホイールという感じです。
ただ惜しいのは、スポークが少なくて剛性がやや低いことです。
先進的なホイールを作ろうと思った結果の 少スポーク数なのは
分かるのですが・・・。
16:8の24Hなら かなり化けたと思います。

余談で私見ですが、シマノのWH-7700も
後輪がもし24Hだったなら あの構造でもそれなりに走ったと思います。
カタログ重量が50g以上重たくなることと 目新しさに欠けるのは確かなので、
そういう案もあったうえで16Hにしたとは思うのですが。
WH-7700の路線で正当進化したホイールを出して欲しいとは
未だに思っています。歴史的に見れば過去の遺物になっていますが
独自性という点から見れば あれこそ真のシマノホイールだと思います。


私が普段ここで書いているような技術的な話についても、
すでに当たり前に知られていることのうち
手組みホイールに応用できそうな点について抜き出しているに過ぎません。
イチからではなく、ゼロから思いついた要素は皆無です。

Wフリーハブ?あれはアホすぎて誰もやらないだけです。
それについてもトラックハブに両ねじという概念がなければ
思いつかなかったでしょう。

DSC05225amx.jpg
1号改3・3・7 63本スポークですが、
リム内側には63個のニップル穴があいています。
元々の32Hプラス新たに32Hマイナス1H(バルブ穴の位相)で
63Hですが、
DSC05226amx.jpg
リム外側は32Hのままです。こんな大きな穴をほぼ倍数 さらにあけるのは無理です。
ということで 新たに増やした31H分のニップル31個は
磁石で1つずつ誘導して通しています。
この仮組みが実に面倒です。
このやり方はフルクラムから拝借しました。
きっとイチからは思いついていません。

一自転車屋に過ぎない私が 自転車のホイールについて
革新的な新発見をするということが
どれくらいありえないかは分かっているつもりです。
「起源の主張」が どれくらいハズカシイ妄言であるのか、についても同様です。

category: ホイールの話

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2013/06/30 08:02 | edit

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