ITLAB45のホイールを組み直しました(前輪だから前編) 
2022/11/04 Fri. 23:35 [edit]
今日もホイー(以下略)。

お客さんから ITLAB45のホイールをお預かりしました。
今日 触るのは前輪だけですが。

DT180ストレートスポーク用ハブ 24H

ピラー製 特注チタンスポーク 強制左右2クロス組みで
前後輪の左右全ての最終交差を編んであります。
このホイールを お預かりした理由ですが、
ニップルが やたらとゆるむということです。
一度 ITLABに送って 直してもらったとのことですが、
それから また ゆるんできたとのことです。
ホイールには なにかと噴飯ものの寝言が書いてある
説明書が添付されていましたが、
それを見る前に お客さんから先に聞いた話では
ホイールの当初の状態は テンションがヌルく、
返ってきたホイールは キンキンに張ってあったということです。
私は、要素の大小を勘案してそれが最善だと
思えるだけの事情があるのであれば
あえて スポークテンションを低めで組むというのを
否定するわけではありませんが、
テンション低めで ニップルがゆるみにくいホイールを組むというのは
それなりに難しいです。
もし このホイールの組み手が 低めのテンションで あえて組むという
確たるポリシーなりフィロソフィーがあって
やっているのであれば そのこと自体は否定しませんが、
お客さんがホイールを触って、あるいは乗って
送る前とテンションが全然違うと分かるくらいの差があったということは
スポークテンションに関して一貫性が無いということです。
張って返すくらいなら 最初から張っておけや、ということですね。
というのが説明書を読むまでに 私が思ったことです。
あ、お客さんには「再度 ITLABに送ればいいのでは」と言ったのですが
同じところに見てもらっても また同じことが起きそうということで
当店で見てみることになりました。
結果、ゆるむ原因は これだろうというのは特定できましたが。
で、説明書を読んだのですが
スポークテンションを110kgf以上に張るなと書いてあります。
参考スポークテンションは 前輪のブレーキ側と後輪のドライブ側ともに
100~105kgfということでした。
指定でも推奨でも限界でもなく
「参考」スポークテンションという言い回しや
ブレーキ側 ドライブ側という言い回しは説明書の原文ママです念のため。
いや、これはおかしい。
送る前後で お客さん自身テンションの違いが
明確に分かったということですが、
送る前は100kgfで 返ってきたものは105kgfなのでしょうか?
そんな明確な差が 5kgfの違いで出るわけが無いというのが ひとつ。
もうひとつは、どんなに精度の高いリムと 個体差の少ないスポークで
縦振れを限界まで追い込んでホイールを組もうとも、
現実に存在する材料の範囲で
ホイール片側のスポークテンションのバラツキを
5kgf以内におさめるのは不可能です。
例えば、24Hのホイールで 高テンション側の下限を105kgfにして
ホイールを組んだとしましょう
(もちろん 縦横振れを追い込んで センターも出ているというのは
当たり前の前提条件です)。
そうすると、片側12本のスポークのうち
何本かは110kgfを超えます。
なので、110kgfを 絶対に超えないように組むなら
上限のほうを105kgfにしてホイールを組むしかありません。
それだと、片側12本中の何本かは100kgfを割ることになります。
これ自体は仕方のないことです。
で、返ってきた状態のホイールの高テンション側が
1本たりとも 110kgfを超えていないというのであれば、
最初の状態のホイールが 100~105kgfで組んであった
はずが無いのです。
それと、このホイールのスポークテンションは
DTのテンションメーターで測ることは可能だが
パークツールのTM-1や ホーザンでは無理だと書いてありました。
これも誤りです。
今回の件では 私は一旦ホイールをバラして
お預かり時のテンションそのままに ニップルがゆるみにくいように
組み直すのですが、高テンション側12本中
H1STの最高値を採っておいて、
組み直し後も それに倣えばホーザンのテンションメーターでも
ホイールは組めます。
まあ一応、指定はされているので
DTのテンションメーターも使いましたが
D1STとH1STで ある第2ST(一般的な意味でのスポークテンション)のときに
ホーザンのほうだけ 第1STと第2STの弓なり曲線から外れるような
数値は検出されませんでした。当たり前のことですが。
むしろ今回の件で D1ST→第2ST→H1STの換算表を作ったので
同じスポークであれば 今後はホーザンのテンションメーターでも
ホイール組みができるようになりました。
パークツールのTM-1に関しては、個体差が大きいのと
摺動部の抵抗を減らす調整(注油も含む)をすることによって
針が上がりやすくなるなど 問題はありますが、
ある個体を なるべく同じコンディションで使うということに注意すれば
実用上は問題ありません。
DTもホーザンも テンションメーターは非常に高価なので、
趣味のレベルのホイール組みでは
ちょっと手が出ないと思われますので TM-1の意義は大きいです。

ニップルをゆるめました。
この外周側を回すニップルですが、
説明書には内周側を 絶対に つかむなと書いてあります。
これには同意です。言われなくともそうします。
歯周ポケットが やたらと深いニップルで、
ニップルに スポークを(回さずに)押し込むと
スポークのねじ山が ほぼ隠れるくらいには深いです。
ねじ止め剤として パリパリに固まる系のものが
使われていましたが、これは初動ゆるみに効くだけで
ねじ山の部分の摩擦抵抗を増やす効果は ほぼありません。
実際、ニップルとリムの接触面の圧が抜けて以降は
非常に軽く回せました。
これには別に理由もあるのですが(後述)。

↑こやつ
歯周ポケットが深いので パリパリ系のカスも長いです。
書き忘れていましたが、作業前の状態は
紙1枚程度のセンターずれがありました。
センターゲージによってはドンピシャ判定される程度なので、
まあ センターは出ていたということにします。
作業前の 高テンション側のD1STとH1STは全て採りました。
スポークテンションが 作業前後で
ほぼ変わらないという点に注意しています。
それと、とくに ゆるみを生じたという目印のテープが
後輪のスポークに貼ってありましたが
それを知ったうえで 前輪を先に触っています。
前輪の高テンション側の H1STが分かっているので、
後輪は 仮にハブとリムとスポークがバラの状態で渡されても
参考テンションでホイールが組めるようになりました。

このホイールの最もヤバいところはですね、
チタンスポークだからということで
ねじ山に焼き付き防止のプレップグリスを
ふんだんに塗って組んであるということです。
こんなん ゆるみが出るに決まってるやろ。
これが冒頭で書いた ゆるむ原因で、
先ほど書いた パリパリ系ねじ止め剤から解放して以降
ニップルの回転が軽い理由です。
もしかしたら このホイールの組み手は ねじ山にグリスを塗布したことと
ニップルのゆるみ事例には因果関係が無いと ほざくかもしれませんが、
組み直したか バラさずにテンションを張り直したかは知りませんが
ニップルに ゆるみが出るというホイールを 再度 触って
また ゆるんできたという 確かな負の実績がある以上
そういう主張をしたとしても説得力はありません。

パリパリ系ねじ止め剤がスポークに付いていると
ハブフランジから スポークを抜くことができません。

ハブフランジ周りに プレップグリスが付きましたが
これはあとで洗浄しています。

↑片側のスポーク12本

ステンレスのバットを傾けて、
四隅の一辺に パーツクリーナーを噴きました。
グリスに含まれる粒子が対流して渦巻いています。

私は 手抜き仕様と断じますが、左右のスポーク長さが同じでした。
一応、元右側と元左側で 分けましたが。
スポーク1本あたりのコストが高いので(といってもCX-RAYの6倍くらいですが)
スペアスポークの在庫の種類を減らしたかったのかもしれません。
「ディスクブレーキの前輪程度のオチョコなら同じ長さでも大丈夫!」
とか 後出しで言い訳しても かまいませんよ。
スポーク長さに関して その程度の認識で
ホイールを組むような奴なんだなあと思うだけなので。
元右側12本の重量は33.3gで、

元左側12本は33.4gでした。
阪神は関係ありません。

24本の合計は それを足し合わせた66.7gでした。
スポーク長さは275mmだったので、
スポーク比重は66.7(g)÷275(mm)÷24(本)で
0.01010606・・・となり、
これを100%の基準値0.0257で割ると
0.03932319・・・となるので
39.3%となります。
ストレートスポークは、首折れスポークだと
スポーク長さに含まれず しかし重量は含む
首折れ以降の部分が無いので
スポーク比重が かすかに低く出る傾向があります。
なので 概算のときは40%としても問題はありません。


元右側(反ローター側にして低テンション側)のスポークのうち
何本かにのみ 最終交差で擦った摩耗痕がありました。

ニップルのほうも洗浄します。
上の画像はスポークを洗ったパーツクリーナーに
ニップルを漬けた・・・わけではなく バットを洗浄したあとに
新規に噴いたパーツクリーナーです。
なので 出てきた汚れは全てニップル由来です。

↑バットを傾けて 辺の部分に垂らすと こんな感じ

パーツクリーナーは仮洗浄で、
さらに超音波洗浄をしました。
上の画像のニップルは水中です。
スイッチを入れた直後は ニップルの穴から
黒いもやのような汚れが出ていましたが
画像は撮れませんでした。

このリムは、オフセットリムには見えません。
オフセットリムで無かったとしても かつて
「こちら側を ディスクの前輪ならローター台座側、
後輪ならフリーボディ側にしろ」という指定のステッカーが貼ってあり
それが現状 剥がれて落ちてしまったという可能性があるので
元の状態のリムの左右が 組み直しで変わってはいけません。
なので「元の右側は こっち」という目印のテープを
ホイールをバラす前に貼りました。
それはいいのですが、このリムには別の問題があります。
このリム、逆リムになっています。
バルブ穴を基準としたリムの穴振りが
この世の大多数のリムと同じものを正リム、
それと鏡映しに逆であるリムを逆リムと 私は呼んでいます。
カンパニョーロやフルクラムのラジアル組みの前輪は
なぜか ほとんど逆リムです。
いま店内にあるものを見たら
ボーラWTOリムブレーキ用の前輪も 逆リムでした。

バルブ穴から 左右2つずつ、計4ヵ所のリム穴の横に
テープを貼りました。
ここから、上の画像左から 穴振りを見ていきます。

リムの成型の都合で出来るのでしょうか、
中心に継ぎ目のような線がありますが
上の画像のリム穴は どう見ても
その線より 上側に振っています。

穴振り方向を矢印で書き込みました。
先ほどの画像、リム穴の奥が真っ暗なのは
リムを壁に押し付けていたからですが
これ以降は 少し離して撮っています。

その次です。

明らかに画像下側に振っていますね。

バルブ穴をまたいでその次

これも明らかに上側に振っています。

最後に4つめ。

これも下側です。
中心線に対して振っている見かけ上の量は
完全に同じではないものの(リム側の精度の問題)、
ド中心に穴があいているように見えて
判別に困るという穴は ありませんでした。

ということはこのリム、間違いなく逆リムです。
そして元の状態では 正リム扱いで組んでいました。

先ほどのバルブ穴周りとは別に、
「左右交互に穴振りがある」という先入観を持たずに
それぞれ個別に「明らかに こっちに振っているように見える」側に
テープを貼ることにします。
上の画像の穴だと

こうですね。

この穴だと

こうなります。

すると やはり穴の左右交互にテープを貼る結果となり、

先ほどのバルブ穴周辺の穴振りメモとも
矛盾なく つながりました。
で、逆リムだと何が困るのかというと、今回のDTの
強制左右タンジェント組み仕様のストレートスポーク用のハブが
正リム用の設計になっているからです。

正穴振りのホイールを横から見ると、
最終交差の左右1ペア(スポーク4本)のうち
自分から見て手前の最終交差のほうが
時計回りに進んでいる向きになります。
逆リムは その逆です。
首折れスポークと、首折れスポーク用の汎用ハブの場合は
スポークをハブフランジに通すときの初手の
右落とし/左落としを変えることで
逆リム用の最終交差の左右ペアを作ることができますが、
正リム前提のストレートスポーク用のハブは
これを変更できません。

180ハブを右側から見た画像です。
作業の都合上 左フランジの反ヤマアラシさん方向のスポークを
先に全て通していますが、

そのうち関係ない5本は 除外して見てください。
これは正リム用の最終交差1ペアの形です。

リムの穴振りに従って、正リム用ハブと
逆リムで ホイール組みすることにしました。
上の画像、目印のテープを貼っているスポークは
画像 下側のフランジから出ていますが

穴振りと合っています。というか合わせています。


センタードンピシャで、元のスポークテンションと
ほぼ同じにして組み直しました。
今回は微増すら させていません。
パリパリ系ではない、普段 当店で使っている ねじ止め剤を
脱脂したスポークのねじ山に塗布しています。
このホイールを組んだのは当店なので、
今後は 振れ取りなどの工賃は無料です。
たぶん、ゆるまないと思うのですが・・・。
ちなみに、依頼の趣旨からは外れますが
このハブとリムで「持ったときのホイール重量」は
重たくなるものの スチールスポークに変更して
元のホイールより かかりがいいとか全般的に走るようになったと
言わしめるだけの組み直しをする自信はあります。
これに関しては悪趣味な方法で証明する算段がありますが
今すぐには できません。フヒヒ。

組めました。

バルブ穴の位相が
最終交差の左右1ペア スポーク4本の中になりますが、
これはハブの設計上絶対に避けられません。
穴振りを間違って組むのと、バルブ穴の位相がこうなってしまうのと、
私は 前者のほうがキショイと思うので こうしました。
あと、チタンスポークのねじ山にプレップグリスが無くとも
ホイール組みの範疇では カチンと焼き付くような感触は
一切 ありませんでした。
このホイールの 組み手または設計者の方へ。
リム穴が 逆穴振りだったことについて
私を納得せしめるような合理的な理由というのが
もしあるのなら、ぜひ教えてください。

お客さんから ITLAB45のホイールをお預かりしました。
今日 触るのは前輪だけですが。

DT180ストレートスポーク用ハブ 24H

ピラー製 特注チタンスポーク 強制左右2クロス組みで
前後輪の左右全ての最終交差を編んであります。
このホイールを お預かりした理由ですが、
ニップルが やたらとゆるむということです。
一度 ITLABに送って 直してもらったとのことですが、
それから また ゆるんできたとのことです。
ホイールには なにかと噴飯ものの寝言が書いてある
説明書が添付されていましたが、
それを見る前に お客さんから先に聞いた話では
ホイールの当初の状態は テンションがヌルく、
返ってきたホイールは キンキンに張ってあったということです。
私は、要素の大小を勘案してそれが最善だと
思えるだけの事情があるのであれば
あえて スポークテンションを低めで組むというのを
否定するわけではありませんが、
テンション低めで ニップルがゆるみにくいホイールを組むというのは
それなりに難しいです。
もし このホイールの組み手が 低めのテンションで あえて組むという
確たるポリシーなりフィロソフィーがあって
やっているのであれば そのこと自体は否定しませんが、
お客さんがホイールを触って、あるいは乗って
送る前とテンションが全然違うと分かるくらいの差があったということは
スポークテンションに関して一貫性が無いということです。
張って返すくらいなら 最初から張っておけや、ということですね。
というのが説明書を読むまでに 私が思ったことです。
あ、お客さんには「再度 ITLABに送ればいいのでは」と言ったのですが
同じところに見てもらっても また同じことが起きそうということで
当店で見てみることになりました。
結果、ゆるむ原因は これだろうというのは特定できましたが。
で、説明書を読んだのですが
スポークテンションを110kgf以上に張るなと書いてあります。
参考スポークテンションは 前輪のブレーキ側と後輪のドライブ側ともに
100~105kgfということでした。
指定でも推奨でも限界でもなく
「参考」スポークテンションという言い回しや
ブレーキ側 ドライブ側という言い回しは説明書の原文ママです念のため。
いや、これはおかしい。
送る前後で お客さん自身テンションの違いが
明確に分かったということですが、
送る前は100kgfで 返ってきたものは105kgfなのでしょうか?
そんな明確な差が 5kgfの違いで出るわけが無いというのが ひとつ。
もうひとつは、どんなに精度の高いリムと 個体差の少ないスポークで
縦振れを限界まで追い込んでホイールを組もうとも、
現実に存在する材料の範囲で
ホイール片側のスポークテンションのバラツキを
5kgf以内におさめるのは不可能です。
例えば、24Hのホイールで 高テンション側の下限を105kgfにして
ホイールを組んだとしましょう
(もちろん 縦横振れを追い込んで センターも出ているというのは
当たり前の前提条件です)。
そうすると、片側12本のスポークのうち
何本かは110kgfを超えます。
なので、110kgfを 絶対に超えないように組むなら
上限のほうを105kgfにしてホイールを組むしかありません。
それだと、片側12本中の何本かは100kgfを割ることになります。
これ自体は仕方のないことです。
で、返ってきた状態のホイールの高テンション側が
1本たりとも 110kgfを超えていないというのであれば、
最初の状態のホイールが 100~105kgfで組んであった
はずが無いのです。
それと、このホイールのスポークテンションは
DTのテンションメーターで測ることは可能だが
パークツールのTM-1や ホーザンでは無理だと書いてありました。
これも誤りです。
今回の件では 私は一旦ホイールをバラして
お預かり時のテンションそのままに ニップルがゆるみにくいように
組み直すのですが、高テンション側12本中
H1STの最高値を採っておいて、
組み直し後も それに倣えばホーザンのテンションメーターでも
ホイールは組めます。
まあ一応、指定はされているので
DTのテンションメーターも使いましたが
D1STとH1STで ある第2ST(一般的な意味でのスポークテンション)のときに
ホーザンのほうだけ 第1STと第2STの弓なり曲線から外れるような
数値は検出されませんでした。当たり前のことですが。
むしろ今回の件で D1ST→第2ST→H1STの換算表を作ったので
同じスポークであれば 今後はホーザンのテンションメーターでも
ホイール組みができるようになりました。
パークツールのTM-1に関しては、個体差が大きいのと
摺動部の抵抗を減らす調整(注油も含む)をすることによって
針が上がりやすくなるなど 問題はありますが、
ある個体を なるべく同じコンディションで使うということに注意すれば
実用上は問題ありません。
DTもホーザンも テンションメーターは非常に高価なので、
趣味のレベルのホイール組みでは
ちょっと手が出ないと思われますので TM-1の意義は大きいです。

ニップルをゆるめました。
この外周側を回すニップルですが、
説明書には内周側を 絶対に つかむなと書いてあります。
これには同意です。言われなくともそうします。
歯周ポケットが やたらと深いニップルで、
ニップルに スポークを(回さずに)押し込むと
スポークのねじ山が ほぼ隠れるくらいには深いです。
ねじ止め剤として パリパリに固まる系のものが
使われていましたが、これは初動ゆるみに効くだけで
ねじ山の部分の摩擦抵抗を増やす効果は ほぼありません。
実際、ニップルとリムの接触面の圧が抜けて以降は
非常に軽く回せました。
これには別に理由もあるのですが(後述)。

↑こやつ
歯周ポケットが深いので パリパリ系のカスも長いです。
書き忘れていましたが、作業前の状態は
紙1枚程度のセンターずれがありました。
センターゲージによってはドンピシャ判定される程度なので、
まあ センターは出ていたということにします。
作業前の 高テンション側のD1STとH1STは全て採りました。
スポークテンションが 作業前後で
ほぼ変わらないという点に注意しています。
それと、とくに ゆるみを生じたという目印のテープが
後輪のスポークに貼ってありましたが
それを知ったうえで 前輪を先に触っています。
前輪の高テンション側の H1STが分かっているので、
後輪は 仮にハブとリムとスポークがバラの状態で渡されても
参考テンションでホイールが組めるようになりました。

このホイールの最もヤバいところはですね、
チタンスポークだからということで
ねじ山に焼き付き防止のプレップグリスを
ふんだんに塗って組んであるということです。
こんなん ゆるみが出るに決まってるやろ。
これが冒頭で書いた ゆるむ原因で、
先ほど書いた パリパリ系ねじ止め剤から解放して以降
ニップルの回転が軽い理由です。
もしかしたら このホイールの組み手は ねじ山にグリスを塗布したことと
ニップルのゆるみ事例には因果関係が無いと ほざくかもしれませんが、
組み直したか バラさずにテンションを張り直したかは知りませんが
ニップルに ゆるみが出るというホイールを 再度 触って
また ゆるんできたという 確かな負の実績がある以上
そういう主張をしたとしても説得力はありません。

パリパリ系ねじ止め剤がスポークに付いていると
ハブフランジから スポークを抜くことができません。

ハブフランジ周りに プレップグリスが付きましたが
これはあとで洗浄しています。

↑片側のスポーク12本

ステンレスのバットを傾けて、
四隅の一辺に パーツクリーナーを噴きました。
グリスに含まれる粒子が対流して渦巻いています。

私は 手抜き仕様と断じますが、左右のスポーク長さが同じでした。
一応、元右側と元左側で 分けましたが。
スポーク1本あたりのコストが高いので(といってもCX-RAYの6倍くらいですが)
スペアスポークの在庫の種類を減らしたかったのかもしれません。
「ディスクブレーキの前輪程度のオチョコなら同じ長さでも大丈夫!」
とか 後出しで言い訳しても かまいませんよ。
スポーク長さに関して その程度の認識で
ホイールを組むような奴なんだなあと思うだけなので。
元右側12本の重量は33.3gで、

元左側12本は33.4gでした。

24本の合計は それを足し合わせた66.7gでした。
スポーク長さは275mmだったので、
スポーク比重は66.7(g)÷275(mm)÷24(本)で
0.01010606・・・となり、
これを100%の基準値0.0257で割ると
0.03932319・・・となるので
39.3%となります。
ストレートスポークは、首折れスポークだと
スポーク長さに含まれず しかし重量は含む
首折れ以降の部分が無いので
スポーク比重が かすかに低く出る傾向があります。
なので 概算のときは40%としても問題はありません。


元右側(反ローター側にして低テンション側)のスポークのうち
何本かにのみ 最終交差で擦った摩耗痕がありました。

ニップルのほうも洗浄します。
上の画像はスポークを洗ったパーツクリーナーに
ニップルを漬けた・・・わけではなく バットを洗浄したあとに
新規に噴いたパーツクリーナーです。
なので 出てきた汚れは全てニップル由来です。

↑バットを傾けて 辺の部分に垂らすと こんな感じ

パーツクリーナーは仮洗浄で、
さらに超音波洗浄をしました。
上の画像のニップルは水中です。
スイッチを入れた直後は ニップルの穴から
黒いもやのような汚れが出ていましたが
画像は撮れませんでした。

このリムは、オフセットリムには見えません。
オフセットリムで無かったとしても かつて
「こちら側を ディスクの前輪ならローター台座側、
後輪ならフリーボディ側にしろ」という指定のステッカーが貼ってあり
それが現状 剥がれて落ちてしまったという可能性があるので
元の状態のリムの左右が 組み直しで変わってはいけません。
なので「元の右側は こっち」という目印のテープを
ホイールをバラす前に貼りました。
それはいいのですが、このリムには別の問題があります。
このリム、逆リムになっています。
バルブ穴を基準としたリムの穴振りが
この世の大多数のリムと同じものを正リム、
それと鏡映しに逆であるリムを逆リムと 私は呼んでいます。
カンパニョーロやフルクラムのラジアル組みの前輪は
なぜか ほとんど逆リムです。
いま店内にあるものを見たら
ボーラWTOリムブレーキ用の前輪も 逆リムでした。

バルブ穴から 左右2つずつ、計4ヵ所のリム穴の横に
テープを貼りました。
ここから、上の画像左から 穴振りを見ていきます。

リムの成型の都合で出来るのでしょうか、
中心に継ぎ目のような線がありますが
上の画像のリム穴は どう見ても
その線より 上側に振っています。

穴振り方向を矢印で書き込みました。
先ほどの画像、リム穴の奥が真っ暗なのは
リムを壁に押し付けていたからですが
これ以降は 少し離して撮っています。

その次です。

明らかに画像下側に振っていますね。

バルブ穴をまたいでその次

これも明らかに上側に振っています。

最後に4つめ。

これも下側です。
中心線に対して振っている見かけ上の量は
完全に同じではないものの(リム側の精度の問題)、
ド中心に穴があいているように見えて
判別に困るという穴は ありませんでした。

ということはこのリム、間違いなく逆リムです。
そして元の状態では 正リム扱いで組んでいました。

先ほどのバルブ穴周りとは別に、
「左右交互に穴振りがある」という先入観を持たずに
それぞれ個別に「明らかに こっちに振っているように見える」側に
テープを貼ることにします。
上の画像の穴だと

こうですね。

この穴だと

こうなります。

すると やはり穴の左右交互にテープを貼る結果となり、

先ほどのバルブ穴周辺の穴振りメモとも
矛盾なく つながりました。
で、逆リムだと何が困るのかというと、今回のDTの
強制左右タンジェント組み仕様のストレートスポーク用のハブが
正リム用の設計になっているからです。

正穴振りのホイールを横から見ると、
最終交差の左右1ペア(スポーク4本)のうち
自分から見て手前の最終交差のほうが
時計回りに進んでいる向きになります。
逆リムは その逆です。
首折れスポークと、首折れスポーク用の汎用ハブの場合は
スポークをハブフランジに通すときの初手の
右落とし/左落としを変えることで
逆リム用の最終交差の左右ペアを作ることができますが、
正リム前提のストレートスポーク用のハブは
これを変更できません。

180ハブを右側から見た画像です。
作業の都合上 左フランジの反ヤマアラシさん方向のスポークを
先に全て通していますが、

そのうち関係ない5本は 除外して見てください。
これは正リム用の最終交差1ペアの形です。

リムの穴振りに従って、正リム用ハブと
逆リムで ホイール組みすることにしました。
上の画像、目印のテープを貼っているスポークは
画像 下側のフランジから出ていますが

穴振りと合っています。というか合わせています。


センタードンピシャで、元のスポークテンションと
ほぼ同じにして組み直しました。
今回は微増すら させていません。
パリパリ系ではない、普段 当店で使っている ねじ止め剤を
脱脂したスポークのねじ山に塗布しています。
このホイールを組んだのは当店なので、
今後は 振れ取りなどの工賃は無料です。
たぶん、ゆるまないと思うのですが・・・。
ちなみに、依頼の趣旨からは外れますが
このハブとリムで「持ったときのホイール重量」は
重たくなるものの スチールスポークに変更して
元のホイールより かかりがいいとか全般的に走るようになったと
言わしめるだけの組み直しをする自信はあります。
これに関しては
今すぐには できません。

組めました。

バルブ穴の位相が
最終交差の左右1ペア スポーク4本の中になりますが、
これはハブの設計上絶対に避けられません。
穴振りを間違って組むのと、バルブ穴の位相がこうなってしまうのと、
私は 前者のほうがキショイと思うので こうしました。
あと、チタンスポークのねじ山にプレップグリスが無くとも
ホイール組みの範疇では カチンと焼き付くような感触は
一切 ありませんでした。
このホイールの 組み手または設計者の方へ。
リム穴が 逆穴振りだったことについて
私を納得せしめるような合理的な理由というのが
もしあるのなら、ぜひ教えてください。
category: のむラボ日記
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