のむラボ日記

自転車工房「のむラボ」のブログです

ホイールのスポークテンションの左右差の話 その2  

やっとここまで来た!
これから書くことは私の総論に近いです。
まだまだネタはありますが、これを書くためにヌポークだのなんだのと
これまで書いてきました。例によって めっちゃ長いです。
DSC00177amx.jpg
リヤホイールのスポークテンションの左右差について、
前回はホイールを前後方向から見た場合の 是正方法について書きました。
答えはオフセットリム、ハイローフランジということでしたが、
今日はホイールを左右方向から見た場合についてです。

DSC00178amx.jpg
この図ではヌポークラジアルのスポークを描いていますが、
DSC00179amx.jpg
ラジアル組みのスポークは横方向から見た場合のスポークの延長線
(上の図の赤の破線)がハブの中心を通ります。
これを今後「ラジアル線」と呼びます。
円の半径から取り出した線分という見方も出来ます。
アマチュア無線の世界でもラジアル線という単語が存在しますが、
全く関係ありません。私の造語です。

DSC00181amx.jpg
次にヌポークと反ヌポークで4本組みした場合を考えます。

DSC00182amx.jpg
ヌポークのハブ穴から見たラジアル線はこのようになります。

DSC00183amx.jpg
見づらいので反ヌポークを消してヌポークだけにしました。
ハブから出たスポークが最も直接的にリムを引っ張るのは
スポークがラジアル線の上に重なったとき(ラジアル組み)になります。
そこからタンジェント組みの 組み数が大きくなってスポークが
ラジアル線から逸れれば逸れるほど、スポークテンションの損失が発生します。

DSC00187amx.jpg
スポークテンション(スポークのピーンとした張り具合)は
上の図のような方法でたわみ量を見ることで計測できます。
太いスポークほど変形しにくい(たわみにくい)ので
実は 一意的な測定方法ではないのですが、
他に方法もないのでこのように計測します。

DSC00188amx.jpg
↑この図はリムとハブが90°直交していることになるので
おかしな図ですが、そこはノー ツッコミでお願いします。

DSC00189amx.jpg
ニップルを締めるとスポークテンションが増大します。
(上の図の赤い矢印)
それと同時にニップルの首元がリムに対して食いつきます。
(上の図の青い矢印)

DSC00190amx.jpg
ここから際限なくスポークテンションを上げていったとすると、
リム・ニップル・スポーク・ハブの4つのうち
どれかが破損してホイールとして使えなくなります。

ハブが弱いと、ハブフランジがちぎれます。
組んでいる最中でなったことはないですが、
ラジアル組みで組んだ後に時間が経ってちぎれた例は本当にあります。
4つのうち一番起こりえない現象です。

スポークが弱いと、首折れ部分でちぎれます。
これも組んでいる最中にはまずならないですが、ホイールを使っていて
スポーク折れが起きることはありますね(金属疲労)。
使い込んだホイールを振れ取りするとき、ニップルを締めた瞬間に
スポークが弾けるように首元が折れてしまうこともあります。
4つのうち1番起こりやすい現象です。

ニップルが弱いと、ニップルのリムへの首かかりの部分で
亀裂が一周にわたって入り、スポークがリムから抜ける格好になります。
これはスポーク折れの次に多いです。
一般の方はこれも「スポーク折れ」ということが多いですね。
スポーク関係で破損している部分があって 要修理なのですから
間違いではないですが。
ニップルの材質には しんちゅうとアルミがありますが、軽いアルミの方が
これになりやすいと思われているようです。
アルミニップルはホイールを組んでいるときに 四角をナメやすいのは確かですが、
引張強度はしんちゅうより弱いかというと、そうでもないと思うのです。
個人的な経験ではアルミの方が 組んでしまえば強いのではないかと
思うのですが、私の中での理論的根拠が薄いので 断言はしません。
もしアルミの方が強いのなら、(ホイールを組む側の人にとってではなく
ただ使う側の人にとって)ノーリスクで軽量化できるということになります。

リムが弱いと、上の図のようにリムが破損してしまいます。
(文章が長すぎて上の図が見えないですが)
使用による経年変化でなる場合もありますが、スポーク穴の耐引張強度が
低いリムだと、組んでいる最中に起こることもあります。
カーボンリムはアルミリムよりもこれに対して弱い、と言いたいところですが
最近はむしろアルミリム以上にスポークテンションが上げられる
リムも出てきているので一概には言えません。
リムメーカーがスポークテンションの上限値を定めているのは、
これを起こりにくくするためです。

DSC00191amx.jpg
ここでスポークテンションをST
ニップルがリムを食い破ろうとする力をRKと以下表現します。
pokeensionのSTと
imをui破るのRKです。

DSC00192amx.jpg
冒頭と同じような図に戻りますが、ラジアル組みで100STの力で
スポークを張ったとき、リムに100RKの引っ張りが発生しているとします。
メーカーがリムの破損について問題にしているのはRKのほうですが、
RKは計測のしようがないので(専門的な検査機関なら可能かも)、
普通は前述の方法でSTの方を計測します。

DSC00194amx.jpg
次に、4本組みで100RKの引っ張りを出すことを考えてみます。
4本組みのスポークは引っ張り方向がラジアル線から逸れているので、
引っ張りの力の損失があります。その上で100RKに持っていくわけですから
DSC00195amx.jpg
100RKにするには100ST以上の力で引っ張らないといけなくなります。
上の図では120STと書いてますが、実際の正確な値ではありません。
100ST以上なのは確実ですが、まあ これくらいかなという数字です。
もしメーカーが「100ST以上で組むな」というのであれば
4本組みでも100STを上限として組みますが、
その時のRKは たぶん80RKくらいになるでしょう。


DSC00196amx.jpg
ここで重要なのは、同じRKならラジアル組みの方がタンジェント組みよりも
スポークテンションが低くなる
、ということです。
ここまでの文章、これが言いたいだけなんですよ。

DSC00197amx.jpg
RKはホイールの縦硬さに直結しますが、リムメーカーが指定している限界値は
STのほうなので、STを指定上限いっぱいまで張ったとき
もっともRKが高くなるのは 0本組み(ラジアル組み)です。
「ラジアル組みが縦に硬いホイールになる」というのは迷信でも何でもありません。
そこから2→4→6→8本組みとタンジェント組みになるにしたがって、
1STあたりに上昇するRKが ラジアル線から外れる損失により減少していきます。

DSC00198amx.jpg
↑この画像の青く塗ったスポークは8本組のヌポークですが、
ラジアル線とほぼ垂直に近いですね。
円(ハブフランジ)の接線に近いです。タンジェント組みのタンジェントとは
接線という意味ですから、まさに接線組みです。

DSC00200amx.jpg
0~8本組みをするとき、ハブ穴が何Hから可能かを書いておきます。
ここでy≦4/xを使います。いやー便利だ。

DSC00202amx.jpg
ホイールを前後方向から見るとき、いつもは真後ろから見た図を描いているつもりですが
今回は真上から見たとします。
目の付けどころが、シャープでしょ。に見える目ですが、
シャープとは関係ありません。
シャープが自転車のホイールを考えたとしたら、きっと
プラズマクラスターを付けるでしょう。

DSC00240amx.jpg
プラズマクラスター発生装置付きのハブで組んだホイールが
走行しているとして、前からエヘン虫を流してみます。
マイナスイオンの効果により、
きれいなエヘン虫になりました。

DSC00203amx.jpg
エヘン虫はどうでもいいのですが(じゃあ書くな)、
タイヤを履いていないホイールを上から見てみます。
バルブ穴は真上にあるとします。

DSC00206amx.jpg
このホイールをヌポーク その1(→こちら)のときに出てきた魔法のナイフで
サクサク切開していきます。リムの穴振りを縫うように避けて、
ハブは真ん中で 真っ二つにします。
スプロケットのついている側からも明らかですが、
画面上が進行方向になります。
両側ともラジアル組みなのは、
見やすさ重視ということでスルーしてください(笑)。

DSC00207amx.jpg
今回は平たくのさずに 開くだけです。
二枚貝を最大限開いた状態のようなものです。

DSC00208amx.jpg
それをリムの切開面ではなく、ブレーキゾーンの側から見た図が
上の図です。

DSC00209amx.jpg
前回の話のときに、リヤホイールはオチョコがあるので
フリー側の方がスポークテンションが高くなると書きました。
上の図では左右ともタンジェント組みになっています。

DSC00210amx.jpg
↑反フリー側をラジアル組みにしたホイールの場合、こうなります。
「前後ホイールとも全部ラジアル組みにしたら空力と軽さの面で
最高に有利だけど、フリー側は強烈なねじれがかかるので
ねじれに強い タンジェント組みで残しておこう」という
発想です。これをやっているホイールメーカーは実に多いのですが、
代表的なのはイーストンでしょうか。それ以外にもたくさんあります。

DSC00211amx.jpg
前述したように、ラジアル組みにするとスポークテンションが下がります。
もともとスポークテンションの低い反フリー側のテンションを
さらに下げるわけですから、スポークテンションの左右差は
余計にひどくなります。ホイールの左右バランス的には最悪の組み方です。

DSC00238amx.jpg
私の謎コスミックカーボンは反フリー側がラジアル組みですが、
これはリムにあいているスポーク穴の都合で
こう組まざるを得ませんでした。
実際に反フリー側のスポークをにぎると、かなりぬるいです。
ただ、ラジアル組みの場合 スポーク同士の接触がないので
接触によるカキカキという異音が発生せず、
左が弱いというのは ばれにくいです。
ラジアル組みをヌポークでしているのは かすかな反抗です。

DSC00213amx.jpg
↑ではフリー側をラジアル組み、反フリー側をタンジェント組みしてみては
どうでしょうか。こうすればフリー側のスポークテンションが下がるので、
相対的に左右のスポークバランスが近づきます。
ホイールのバランス的にはこれが最高の組み方です。が、
DSC09123amx.jpg
ラジアル組みは
DSC09124amx.jpg
↑こういうねじれに弱いんですね。
前輪で発生する このねじれはリム側ブレーキによるもののみなので
大した問題ではないですが、後輪のフリー側ではペダリングから伝わる
フリーボディのねじれパワーが半端ではないので、問題が出てきます。

DSC00218amx.jpg
実際に手組みホイールでフリー側ラジアル組みをしてみました。
これはヌポークラジアルですが、これには理由があります。

DSC00220amx.jpg
反ヌポークラジアルでは横剛性が確保しづらいのです。
横剛性の計算根拠はハブフランジからスポークが出た位置に
なりますが、反ヌポークはそれが非常に狭いです。
さらに、ラジアル組みでスポークテンションが下がるということは、
フリーの強烈なねじれにも耐えにくくなるということでもあります。
手組みホイールの組み方において この反ヌポークラジアルというのは
スポークの首折れリスク的にも最悪の組み方です。

DSC00221amx.jpg
といってヌポークでラジアル組みをすると、
スポーク同士を編んでいないので スポークの横の張り出しが大きくなり、
リヤメカをローギヤに入れると プーリーケージとスポークが接触するという
不具合が発生しやすくなります。
対処法はありますが、それをしても登りの立ちこぎや 平地のもがきで
接触することがありますので、この組み方はやめた方がいいでしょう。
2本組みもスポークを編むのであれば、
2本ともヌポーク→リヤメカと接触する可能性あり
2本とも反ヌポーク→横剛性低い
となるので、オススメしません。
しかし、フリー側ラジアル組みは スポークテンションの左右差の是正にとって
大きなメリットがあるのも事実。何とかならないものか・・・

DSC00108amx.jpg
DSC00109amx.jpg
↑「ハブとスポークを専用設計にして、スポークを大径アルミにしたらいいんじゃね?」
という めっちゃ賢いホイールが、「キシリウム」です。キシリウムキター
ハブフランジ部分の構造を見るに、フリーボディのねじれでスポークが
ひずんだりしなさそうですし、アルミスポークも堅牢そのものです。
これを1999年の時点で考えたというのがマヴィックのすごいところです。
これは私の想像ですが、キシリウムの出発点は
「アルミスポークのホイールを作ろう」ではなく、
「フリー側ラジアル組みのホイールを作ろう」だったと思うんです。
その過程で、フリーボディねじれにびくともしない構造を求めた結果
アルミスポークの採用に至ったということだと思います。



~脱線~
DSC00122amx.jpg
↑これは7800系のデュラエースの完組みホイールです。
フリー側ラジアル組みです。現行モデルではジップのホイールと
マヴィックのキシリウムエリートがスチールスポークでラジアル組みですが、
ストレートスポークのみで可能な高テンションと 賢いハブの設計で、
スチールスポークながらフリー側ラジアル組みで問題ないように出来ています。
このホイールも同様に、スチールスポークでフリーラジアルです。

DSC00125amx.jpg
よくこの時代のデュラエースのホイールが「調整しにくい」などと文句を言われますが、
そんなことはホイールの走る走らないに関係ないので どうでもいいです。
直すのは私の仕事ですし。
このホイール、ハブの内部構造はカンパニョーロの丸パクリで
組み方はキシリウムの丸パクリですが、ホイールの理屈の突き詰め具合で言うと
これがシマノ史上最高傑作のリヤホイールだと私は思います。
これ以降、無理して自分の頭で考えるからしょうもないホイールが出来ちゃうんですね。

DSC00126amx.jpg
左フランジの位置も目いっぱい外に持っていってます。賢い!
WH-9000がワイドフランジとか言ってますが、
幅は これと同じくらいですよ。

DSC09788amx.jpg
エクストラワイドフランジとか言ってますが、
元々WH-7800の時代は ほぼエクストラワイドフランジでした。
で、昨日まで出してた自社製品(WH-7900)をこき下ろすとかすごいなー。

~脱線終わり~

ホイールの撮影にご協力いただいたT村さんへ。
そのホイール、傑作なんで手放したらダメですよ。

DSC00216amx.jpg
フリー側をラジアル組みにできるのは完組みホイールだけ!
(○○先生の漫画が読めるのはジャンプだけ!)
なので、手組みホイールでなんとかスポークテンションの左右差を是正する
組み方を考えてみたいと思います。
上の図では左右ともに0~8本組みと書いていますが、
DSC00223amx.jpg
ラジアル組みと2本組みはデメリットが大きすぎるので除外します。

DSC00224amx.jpg
残った組み方の中で フリー側がクロスになっていて
かつ最もラジアル組みに近くなるのは4本組みです。
4本組みは16Hから可能ですが、16H以下の手組みホイールを組むことは
あまりないでしょう。フリー側は4本組みにします。

DSC00225amx.jpg
反フリー側は、スポーク数の許す限り よりタンジェントに組みたいです。
24Hからは6本組が、32Hからは8本組みが可能になるので、
24H以上の場合は反フリー側を6本組みや8本組みにすると、
フリー側のスポークテンションに対して 反フリー側のスポークテンションが
高くなります。左右差が少なくなったということです。


DSC00063amx.jpg
先日、このリヤホイールで左右差是正の工夫をしてますと書いたのはそのことです。
これは28Hですが、フリー側を4本組み、反フリー側を6本組みにしています。
反フリー側を4本組みにした場合と比べて、左がかなりカッチリと組めます。
本当に全然違います。といっても実はそれよりは結線ハンダ付けの方が
スポークの見かけ上の変形量の軽減に寄与していますので、
結線ハンダ付けをするなら反フリー側は4本組みでもそんなに変わらないのですが。
私はこれを右→左の組み方順に「ヨンロク組み」と勝手に命名してますが、
結線ハンダ付け無しならヨンヨン組みとヨンロク組みは全然違います。

DSC00226amx.jpg
私が20Hと24Hのリヤホイールは違うというのは そこです。
20Hではヨンロク組みができません。
スポークが4本減るという剛性上のリスクと使用者の体重から考えて
20Hの手組みリヤホイールをオススメしないという一般論も
もちろんありますが。
といっても、20Hでも のむラボホイール1号は
70kg以下の人なら全然いけそうです。

DSC00242amx.jpg
↑これは私のホイールですが、マヴィック・リフレックスWOの
CDセラミックモデルです。

DSC00244amx.jpg
レーザー刻印とは手が込んでますね。
同じ処理のオープンプロも存在していましたが、
そちらは酸化被膜の化学式が書いてあって もっとかっこいいです。

DSC00228amx.jpg
フリー側を4本組み、
DSC00229amx.jpg
反フリー側を8本組みしています。
ヨンパチ組みと勝手に命名しています。
32Hのヨンパチ組みが 手組みホイールでスポークテンションの左右差を
軽減する最高の組み方だと思います。36Hでもヨンパチ組みは可能ですが、
なぜ32Hの方がいいのかは後日書きます。

DSC00230amx.jpg
6本組みと8本組みは最終交差の一つ手前の交差も編むことができます。
Wクロス組みです。それに加えて このホイールでは結線ハンダ付けをしていますが、
Wクロスと結線ハンダ付けを同時にすると、スポークが1本とんだときに
とんだスポークの結線をほどきつつ、新しいスポークを通すために
その隣の結線をほどかねばなりません。
それが順繰りに一周します。
つまり、これをやってしまうとスポークが1本飛んだら片側全てを替える羽目になります。
よって お客さんのホイールでは希望のない限りしません。
Wクロスでなければ最悪でも結線された2本の交換で済みます。

DSC00234amx.jpg
↑これはWクロスではありません。
DSC00233amx.jpg
↑紙をはさんだ部分を編むのがWクロスです。
Wクロスはスポークの見かけ上の変形量を減らすことができますが、
効果としてはヨンロク組みの方が大きいと思います。

先ほどの私のリフレックスは「ヨンパチ組みWクロス結線ハンダ付け」という
ラーメンのトッピングを全部盛ったような仕様です。
さすがにこれだけすれば 普通に組んだ場合と比べて全然別物です。
のむラボホイール2号ではこのあたりの理屈も盛り込みます。
↑この1文を書くために長々といろいろ書きました。
読んでくださった方、お疲れ様でした(笑)。ありがとうございます。

ホイールのスポークテンションの左右差の話 その2は
キシリウムえらい!という話でもありましたが、
その3は フルクラムえらい!という話を書きます。また後日。

category: スポークテンションの話

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